第44回 八乙女山の風穴とにわとり塚(1/2話)
雪の消えぎわの春先やとか、稲のとり入れる秋口になると、決まったように井波付近にだけ毎年何度か強い南風が吹くがやと。 棟の鬼瓦が隣の家の座敷に飛び込んで座っとったとか、乗っとった自転車が風にとられて、ひらりひらりと田んぼの中を舞っていったとか、電信柱にしがみついたまま、どうにもこうにも動かれんかったとか、家の中の畳を全部持ち上げて、風が入ってくるがを塞いどったとか…。本当の話をしても、よその町の人は嘘だろうと言って、本当にしてくれん。 そうやさかい、こんな風を『井波の私風(しふう)』というがや。なんで井波だけに吹くがかというと、八乙女山のてっぺんに風穴があって、そこから吹き出すからやと言われている。
むかし、むかし、そのまたずっとのむかし、井波だけに吹く風のとこに住んどる者がかわいそうだといって、えらいお坊さんが八乙女山に登って、風穴の前にありがたいお経さまをうずめて、大きな塚を立てたがじゃ。そして、その上に風の神様を祀るお堂を建てて、「どうか風の神さま、大きな風を吹かせんと、いつもおとなしい風だけ吹かせてください。たのみます」と拝まれたと。それからは、南風が吹かんようになったがやと。そして元日の朝になると、塚の中から金のにわとりが出てきて、東の方の井波に向かって鳴くがじゃ。朝早く起きていて、鳴き声を聞いた者は、一年中よいことばっかり続いたがやと。 −つづく−
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八乙女山のてっぺんに風穴があって、そこから吹き出すからやと言われている。
八乙女山のてっぺんに風穴があって、そこから吹き出すからやと言われている。
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