第49回 藤かけの渡し(1/2話)
今からおよそ千二百年前、雄神川(※1)の西渕に、舟戸藤え門という豪族が住んでいました。信心深い藤え門は、川向かいの雄神神社に毎日お参りに行きたいと思っていました。しかし雄神川は流れが速くて水の量が多く、ゴーゴーと逆巻いて(※2)流れていたので、小さな舟ではたやすく渡ることができませんでした。 ある春の、霧の深い日のことです。ふと向こう岸を見ると、美しい弁天様が現れ、藤え門を手招いているではありませんか。弁天様の不思議な魅力に惹かれた藤え門は、目の前に大きな川があることをすっかり忘れて駆け寄りました。 その時です。向こう岸から美しい五色の霧に包まれた竜が、するすると川を渡ってきました。そして、今にも川に落ちそうな藤え門をすくい上げました。さらに、竜は逆巻く水波の上に身を伸ばして橋変わりになりました。藤え門は弁天様に導かれるままに、竜の背を渡って、向こう岸に無事に着きました。 「そなたは、毎日こちらを向いて熱心に手を合わせていますが、一体何を祈っているのですか」 「実は雄神神社へ毎日行ってお参りしたいのですが、水の勢いがあまりにも強くて、私の小さな舟ではこちらの岸までこぎつくことができません」 「そうでしたか。さあ、私の後についていらっしゃい」 と言うと弁天様はすうっと歩きはじめ、石段を登って雄神神社の境内に着きました。 −つづく−
※1雄神川・・・現在の庄川 ※2さか巻く・・・川や潮の流れに逆らうように波が巻き上がる様子
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「そなたは、一体何を祈っているのですか」
「そなたは、一体何を祈っているのですか」
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