第52回 五ヶの種もみ(1/2話)
およそ二百年前、越中の国は毎年大雨が降り、作物がほとんど獲れない年が続きました。中でも南砺地方の村々では、不作が五年も続き、苦しい日々を送る村人がたくさんいました。 ある日、庄川五ヶ(ごか)村の了恵(りょうけい)というお坊様が、不作続きの井口村や北野村へ布教に出かけました。 暮らしに困り果てていた村人たちは、了恵に相談しました。 「どうかお救いくだされ。種もみをいくら蒔いても芽が出ません」 了恵は言いました。 「わしの在所の稲種を蒔いてみてはどうじゃ。五ヶ種は、昔から不作に強いちゅうからな」 庄川五ヶの稲種は、雨にも強く、質の良い米が獲れると昔から評判でした。了恵の言葉は、不作で困る村人たちにたちまち伝わり、五ヶ種を蒔いて少しでも米を獲りたいと願う人々が増えていきました。そこで了恵は、五ヶ村の人々を集めて相談しました。 「ここの稲種を、飢饉で困っている村人たちに分けてあげるわけにはいかんじゃろか」 「どうじゃろう。米と種もみを取り替えたら?」 ある村人の意見を聞いた了恵と村人たちは、手をたたいて賛成しました。 「それはいい。種もみを売るのではないから藩のおきてにも触れないし」 「わしらの種もみを蒔いてもらって、一粒でも多く米を収穫してもらおう」 「そうすりゃ、苦しみを何とか救ってあげたいという願いも叶えられるというもんじゃ」 −つづく−
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「わしの在所の稲種を蒔いてみてはどうじゃ」
「わしの在所の稲種を蒔いてみてはどうじゃ」
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