第53回 お上様塚と観音様(1/2話)

むかし、庄川の向かいに壇の城とよばれるお城がありました。殿様は神保安芸守といい、その奥方はとても美しく、優しい方でした。 時は戦国時代。日本中のあちこちの殿様が自分の国を広げようと戦いを続けていました。壇の城も、強大な佐々成政の軍勢に攻められ、奥方と子どもたちは、瑞泉寺を頼って、城から逃れることにしました。必死の思いで、ようやく金屋の西野々についた時、はるか彼方に今にも焼け落ちそうな城が見えました。奥方は茫然としてその場に倒れこみ、その夜、亡くなってしまいました。 奥方の亡骸は、村人たちによってその地に埋められました。戦いが終わると亡骸は菩提寺に引き取られましたが、その跡に奥方の黒髪を埋めて塚を築き、「お上様塚」と名付けました。村人たちは、石碑の傍らに松の木を植えました。 それからおよそ三百年の年月が流れ、塚に植えられた松は、天にそそり立ち、枝は四方に伸び、幹は大人一人で抱えることができないほど大きくなりました。 明治十二年、大火で瑞泉寺の本堂が焼失してしまいました。近くの村々の人々は、前より立派な御堂を建てることを誓い合いました。西野々の村人たちは、お上様塚の近くの家に集まって、大きな御堂の材木をどこから切り出して寄進するかを話し合いました。 「お上様の松、なんちゅうでかなったのう。あれはどうじゃ」 「それでも、木を切ったらお上様の崇りがないかのう」 「いや、井波の御坊へ行こうとしてやったがいから、本望じゃろ」 −つづく−
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奥方の黒髪を埋めて塚を築きました
奥方の黒髪を埋めて塚を築きました
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