第62回 南蟹谷のおこり(1/2話)
福光から金沢へ行く途中に、南蟹谷という地区があります。 今から八五〇年ほど前のお話です。 北の方の、山の中にある地区に、蟹池という大きな大きな池がありました。小さい木や大きい木がたくさん茂り、昼も夜のように暗いところで、池は水が青黒く光ってぞっとする、ものすごい怖い所でした。その池に沢蟹がたくさんすみついていました。 「おーい、まだ次郎平さんがいなくなったぞ。蟹の池の近くだそうだ」 「あー、こわいこっちゃ。あの池には、きっと化け物がおるんじゃ」 この大池の近くへ行った人は、誰一人帰ってこなかったそうです。村人たちは、池に近寄ってはいけないと、とても怖がっていました。 「池の化け物をやっつけるには、どうしたものかのう」 村人は、お坊さんに頼みに行くことにしました。 「村の大池に化け物がいて、たくさんの人を呑み込んでしまうのです。どうすればよいでしょうか」 「どうすればよいかわからないが、その池へ行ってみましょう」 お坊さんは村人に頼まれて大池の傍へ行きました。何日か過ごしたある日、大池に大きい風が巻き起こり、水が渦巻いたかと思うと、池から化け物が空へ向かって現われ、大声で怒鳴りました。 「おまえは誰だ。おれ様が誰かわかるか。これから私が問うことに答えてみよ。大きな足二つ、小さい足八つ、二つの目は空をにらんで横に走るものはなんぞ」 −つづく−
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「おーい、次郎平さんがいなくなったぞ」
「おーい、次郎平さんがいなくなったぞ」
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