第63回 まぼろしの木波町(1/2話)
昔、庄に木波という町がありました。ここに、とても物知りなばあさんが住んでいました。生まれる前に起きた雄神川の大洪水のことも、まるで見てきたかのように話していました。 「今まで見たこともない大水じゃった。西野村では人も家もおし流されてのう。そん時の大水で雄神川が、西野村の外れまで来てしもてのう。もうあんなことこりごりじゃ」 このばあさんの話を、人々は心の中で「でたらめ並べおって」とあさげ笑っていました。 ある冬の夜、星の動きを見ていたばあさんは、突然身体を震わせながら言いました。 「大変じゃ、大地震じゃ。山が崩れて大水になるぞ。町が流されるぞ!」 ばあさんは町中をかけまわりました。しかし誰もばあさんのいうことを聞こうとしません。ばあさんは町の長の家へ飛び込み、言いました。 「大変じゃ、若い衆を川の淵へ集めて土を盛るのじゃ。水がこっちに来んようにするのじゃ」 しかし町の長は全く慌てる様子もありませんでした。 その夜、みんなぐっすり眠っていると突然大揺れが始まり、ばあさんの予言した大地震が起きたのです。 大揺れは十二日間も続き、あちこちの山が崩れ、谷は埋まり、庄川の流れを堰き止めてしまいました。上流の白川村あたりでは、三百軒の家が埋まり、生き残った者は一人もいなかったそうです。 −つづく−
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「若い衆を川の渕へ集めて土を盛るのじゃ」
「若い衆を川の渕へ集めて土を盛るのじゃ」
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