第65回 女郎滝(1/2話)
昔、宮島の久利須に、炭焼きをして暮らしを立てている親子が住んでいました。炭焼き窯は、村から一時間ほどかかる所にありましたが、親子は毎日楽しそうに話をしながら通っていました。 ある日、親子は朝の暗いうちに家を出ました。ちょうど炭焼き釜までの道程の半分くらいまで来た時、ようやく夜が明け始めました。辺りは谷川のせせらぎや蛙の鳴き声が聞こえるような、とてものどかな景色が広がっていましたが、少し神秘的な雰囲気のある場所でもありました。 谷川に沿ってしばらく行くと、突然世にも類まれなる若くて美しい女が近づいてきました。親子は、「このあたりでは見かけない女だな」と思い、お互い顔を見合わせました。そして女は二人に尋ねました。 「もし、ちょっとお聞きしますが、このあたりに滝はありませんか」 「うん、おらっちゃの炭焼きしとる近くに、三十メートルほどの滝があるちゃ」 親子は慌てて答えました。すると女は、 「それでは、そこへ案内してくださいませんか」 と申し訳なさそうに頼みました。 親子は、「おかしなことを言う人だな」と思いましたが、案内を引き受け、その滝に向かって道を急ぎました。 目の前に滝らしいものが見えてきました。滝の水は朝もやの中に水しぶきを上げながら、滝壺目がけて落下していました。滝壺の辺りは青くよどみ、肌寒いくらいでした。 −つづく−
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「おかしなことを言う人だな」
「おかしなことを言う人だな」
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