第66回 隠尾の火祭り(1/2話)
庄川右岸の山奥に、隠尾という小さな部落があります。ここでは、毎年十二月十八日に火祭りの行事がありました。その起こりにまつわるお話です。
昔、隠尾の領主・南部家の家老をつとめる小原家に与五兵衛というおやっさまがおられました。 ある冬の早朝、金屋村の西蓮寺のご院主さまが訪ねてこられました。びっくりした与五兵衛は、雪でまっ白になったご院主さまを招き入れました。柴を囲炉裏にくべていると、院主さまはこんな話を始められました。 「今、南部の母屋の家で火が出かかってのう。囲炉裏の上の火あまに火が燃え移って、炎が天井向いてあがっとったちゃ。火あまの縄を切らんなん思うて、蔵の中の大事な包丁を取ってきて、火あまの四本の縄、バシバシと切ってしもた。そしたらやっと火あまが下に落ちて、囲炉裏の中で灰になったがい。そんであんたんとこ来たちゅうわけや。あとで母屋へ行って、話しといてくだはれ」 びっくりした与五兵衛に、ご院主さまは 「そうや、話だけしても証拠にならんさかい、わたしが火を消したこと書いておあげましょう」 そう言って、さらさらと小さな板きれに一筆書いてくださいました。 「ほんまにありがとうございました。」 −つづく−
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「火あまの四本の縄、バシバシと切ってしもた」
「火あまの四本の縄、バシバシと切ってしもた」
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