第74回 弘法さまにもろた水(1/2話)
昔、庄川の町から鍬崎山を越えて利賀村へ行く峠に、二ッ屋という小さな村がありました。今では住む人もいないこの村に伝わるお話です。 暑い夏のある日、おばあさんが昼飯に食べる稗の団子を煮ていました。そこへとても粗末な格好をしたお坊様が来られ、「水を一杯よばれたいんじゃが」と言いました。おばあさんは、縁の欠けた茶椀に水をたくさん汲んで、お坊様にあげました。 「あーっ、うんまい水じゃ。生き返ったわい」 おばあさんはため息をつきながら、「日照りになれば涸れて出んようになることもあるちゃ」とお坊様に言いました。 「そうかい。あとで裏の谷を見ておこう」 お坊様は外へ行こうとして土間を見渡すと、鍋の中で何やらぐつぐつ煮えているのが見えました。 「ばあさんや、これ、何じゃろか」 「味ない稗団子やけど、ひとつあがらっしゃらんか」 お坊様は喜んで食べられて、お礼を言って帰ろうとしたところ、そこに石臼が置いてあることに気がつきました。 「ところで、この石臼の目はよう切れるか」 「なーんやわ、臼の目、だんだん切れんようになってしもて」 お坊様は、おばあさんに鑿(のみ)と槌(つち)を借りると、石臼の目を上手に切ってくださいました。それから、背戸の谷の水を引いてある所へ行って、杖の先でゴミをさらえて筋をつけていかれました。 −つづく−
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「あー、うんまい水じゃ、生き返ったわい」
「あー、うんまい水じゃ、生き返ったわい」
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