第75回 きつねのなげた赤いもち(1/2話)
これは小矢部市宮島に伝わるお話です。 むかし宮島の峠のそばに、お地蔵様が立っておられました。その奥に「赤べい」というきつねが住んでいました。 村人たちは、草や花で作った首飾りをお地蔵様の首にかけたり、お餅やお菓子をお供していました。赤べいは、いつもお地蔵様の後にこっそり隠れ、村人が供えたお餅やお菓子を食べていました。 お地蔵様はきつねのいたずらをちゃんと見ていらっしゃるのですが、少しも叱りませんでした。 ある山祭りの夜のことです。 どろぼうが村から牛を盗み出して、峠の下まで逃げてきました。 「やれやれ、ここまで来ればもう大丈夫。誰にも見つからずにうまくいったわい!」と独り言をいいながら、お地蔵様の前に腰を下ろしました。そして「さて一服しよう」と煙草をふかしはじめました。 ちょうどその時、赤べいはお地蔵様の陰で、お供えのお餅を食べようとしていたところでした。ふと前を見ると、どろぼうがうまそうに煙草をふかしています。赤べいは独り言をつぶやきました。 「こんな夜中に峠を越えて、牛を売りに行く者がいるかなあ。峠の道は長いから、きっと途中で夜が明けると思うがなぁ。村の人に会ったら、何というのかなぁ。牛首峠は長い道だから、お天道様が昇る前に黒牛が赤牛になってしもたと、そんなだじゃれでも言うのかなぁ」 −つづく−
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「さて一服しよう」
「さて一服しよう」
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