第9回 まいこん淵に流れ着かれた御神体(前篇)
その昔、小矢部川は庄川と合流していた。そのため、川下の小矢部川の辺りは大水の度にいつも水浸しになった。 中でも荒川地区の石王丸の辺りは坂又(さかまた)川や中川も合流して、小矢部川に流れ込んでいた。それで大雨になると池や沼ができ、川の合流する所は青くよどんだ淵になっていた。地元の人は、その淵をまいこん淵と呼んでいた。 ある晩のことであった。この村の村長さんは朝から降っている雨が一向に止まないので、なかなか寝付かれないまま朝方近くになってしまった。その時、辺りが急に明るくなり、どこからともなく、「私は、水の神様である。今、まいこん淵に流れ着いた。水をたくさん飲んで溺れそうじゃ。早く助けに来て下され」と、厳かな声(※1)が響いた。 村長さんはビックリして跳ね起きた。隣に寝ていた奥さんを起こして言った。 「わしは、今、神様の声を聞いた。まいこん淵に流れ着いたと言っておられる。わし、ちょっと見に行ってくる」奥さんは、「こんな、ひどい雨ん中、行くがけ」と言うたが、村長さんは、「いや、今なけんなあかん。神様、溺れてしもわっしゃる。早よう、行かんなん」と言うた。「そんなら、気、付けて行かっしゃいね」と、ばんどり(※2)を渡した。
−つづく−
※1厳かな声・・・いかめしくおもおもしい声 ※2ばんどり・・・わら、すげなどを編んで作った雨具
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イラスト 作・ひまわりグループ
イラスト 作・ひまわりグループ
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