第84回 鱒にもろた千石田(1/2話)
むかし、庄川のほとりの須磨という荒れ地に、物静かで正直者の徳べえが、口やかましいお母さんと二人で住んでいました。二人は狭い田畑を耕したり、草鞋を編んだりして一生懸命働いていましたが、その暮らしは貧しいものでした。 ある日、徳べえが草鞋を売った帰りに庄川のそばまで来ると、子どもたちが、川原の石の間で跳ねる大きな鱒を取り囲んで騒いでいました。徳べえは、鱒がバタバタともがいているのを見てかわいそうになりました。その日は草鞋の売上金がたくさんあったので、徳べえは子どもたちから鱒を買い取りました。 「おまえさ、もう二度とつかまらんようにせっしゃいや」 徳べえはそう言うと、鱒を川へ放してやりました。懐は空になりましたが、いいことをしたと清々した気持ちで家へ帰りました。 家に帰るとお母さんは、「今日の草鞋の売上を渡さっしゃい」と手を出しながら言いました。ことの次第を話したところ、お母さんは真っ赤になって徳べえを叱りました。叱られた徳べえは、川へ放した鱒の嬉しそうな様子を思い浮かべ、 「明日また稼げばいいないか」と我が身を励ましました。 それから二、三日経ったある日、川で洗濯をしていたお母さんが、川へ落徳べえは娘を引き止め、それから娘は家の仕事を手伝うようになりました。そのまめまちてしまいました。どんどん流されるお母さんを、美しい娘が救いあげてくれました。 「ありがとう。命を助けてくだはれたあんたは、どこの人かいね」 娘は、最近親と死に別れ、知り合いを訪ねて行くところだと言いました。お母さんと徳べえは娘を引き止め、それから娘は家の仕事を手伝うようになりました。そのまめまめしい働きぶりを見たお母さんは、娘に徳べえの嫁になってくれないかと頼み、二人はめでたく結婚しました。 −つづく−
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「もう二度とつかまらんようにせっしゃいや」
「もう二度とつかまらんようにせっしゃいや」
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