第84回 鱒にもろた千石田(2/2話)
一年ほど経ったある日のこと。徳べえがふと夜中に目を覚ますと、土間から音が聞こえてきました。そっと起きて土間を覗くと、嫁は一生懸命縄をなっていて、縄はうず高く積まれていました。徳べえは声をかけることができず寝床へ戻りましたが、嫁の夜中の仕事は、それから何日も続きました。 ある晩、徳べえは嫁の夢を見ました。 「ずっとそばにいたいと思とったけど、もうおれんようになりました。私はいつか助けてもろた鱒ですちゃ。お礼のしるしに、川べりに縄を張っておいたので、そこに田んぼを作ってくだはれ。きっとよいがになりますよ」 徳べえが目を覚ますと、嫁の姿はなく、土間に山のようになっていた縄もありません。慌てた徳べえは、夢の中で嫁が言った川べりまで走って行きました。すると、荒れ地一帯に縄が張り巡らしてありました。 「そやけど、こんな石だらけの荒れ地が田んぼになるわけないないか」 徳べえがつぶやいた途端、突然激しい大嵐になり、荒れ狂った庄川の流れは堤を破り、どっと流れ出しました。 ようやく嵐が静まった三日目に縄を張った荒れ地へ行ってみると、そこは大水で石ころがなくなり、泥が盛り上がった土地になっていました。 「ありがたや。お前のおかげやで」 徳べえは、嫁の言ったとおり田んぼを作りました。その田んぼは豊作続きとなり、やがて徳べえは村一番の長者様になりました。そしてこのあたりは千石田と言われるようになりました。 ―おしまい―
このお話は、庄川地域のボランティアグループが制作した紙芝居より、一部加筆・修正の上、掲載しました。
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朝は誰よりも早く起き、仕事に精を出しました。
朝は誰よりも早く起き、仕事に精を出しました。
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