第90回 天狗と与左衛門(1/2話)
昔むかし、あるところに墓腰の与左衛門という、力自慢の木こりがいました。木こりは、体の強い人でなければ続かない大変な仕事でした。大きな松や杉を切って、家を建てる材木にするので、とても力がいりました。 大きなのこぎりや、楔(くさび)などをこも(※1)に巻くと十貫(※2)以上もありました。木こりはそれを担いで山へ持って行き、笹で葺いた山小屋で何日も寝泊まりして仕事に励みました。大きな木を大きなのこぎりで「よいしょ、よいしょ」、「ジョッキリ、ジョッキリ」と切りました。一日中力仕事をしていたので、木こりたちはみんな強かったのでした。 村の草相撲で懸賞旗をとるのは、いつも木こりたちでした。そんな中でも与左衛門は、誰と相撲をとろうが喧嘩しようが、負けたことがありませんでした。 盤物(ばんもち)という、石を持ち上げるという行事がありました。与左衛門は、百貫もの大きな石を腹の上に乗せてから肩の上に放り上げ、一町(※3)も走りました。 また、炭を担ぐ競争では、たいていの人は十五俵を担いで三間(※4)ほどしか歩けませんでしたが、与左衛門は三十俵も担いで二町も歩きました。与左衛門は、「おらみたいな強いもんはどこにもおらん」といばりくさっていました。 ところがある時、与左衛門がお宮さんの前を通ろうとしたところ、天狗の様な大男が立ちはだかりました。 「誰じゃお前は。おら通れんがい」 −つづく−
※1こも・・・わらで荒く織った敷物 ※2十貫・・・37.5kg ※3一町・・・約109m ※4三間・・・約5.45m
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「おらみたいな強いもんはどこにもおらん」
「おらみたいな強いもんはどこにもおらん」
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