第96回 弘法さまの清水(1/2話)
昔むかし、興法寺(こうぼうじ)の里に、各地を巡っていらっしゃる、一人のお坊様が来られました。 この日は熱い日差しが照り付け、滝のように汗が流れる夏の日でした。 「喉が渇いたなあ。水を一杯飲ませてくださる家はないものだろうか」 お坊様は汗を拭いながらつぶやきました。ふと見上げると、遥か彼方に家らしきもの が見えました。 「おー。あそこの家で水を一杯もらおう」 お坊様はよろけながら、その家を目指して歩きました。 「ごめんください」 「なんか用かね」 一人の年老いたおばあさんが出てきました。 「旅の者ですが、喉が渇いて、もう一歩も歩けません。どうか水を一杯いただけないものでしょうか」 「それは気の毒に。今すぐ水をおばあさんはそう言って、急いで出て行きました。お坊様は手を合わせながら深々と頭を下げられました。しかしおばあさんは、四半時(※)経っても戻って来ません。 やがておばあさんは汗だくになって帰ってきました。 −つづく−
※四半時・・・約三十分
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大変待たせたね。さあ、お飲みくだざれ。
大変待たせたね。さあ、お飲みくだざれ。
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