第100回 石坂のかんのんさま(1/2話)
福光の才川七には、長沢・石坂・古舘・吉下(よしげ)・町(まち)・太谷(ふとだに)・中才川の七集落がありました。 むかし、長沢に優しい顔の観音様がいらっしゃいました。観音様のお堂の前には小矢部川の河原があり、子どもたちが魚をつかまえたり、泳いだりして遊んでいました。 ある夏の日、厚い雲が空いっぱいに広がり、稲光があちこちに走りました。大粒の雨がパラパラと降ったかと思うとたちまち大雨になり、それは一日中降り続きました。穏やかに流れていた川は、ごうごうと荒れ狂い、川の縁に建っていた観音堂をたちまち飲み込んでしまいました。そして優しい顔の観音様はどこかへ流されてしまいました。 長沢の川下の石坂に住む、孫六というおじいさんが河原に出てみると、岩の陰から河童が現れてこう言いました。 「この石を大切にしまっておけば、もうとう火事がおこらないぞ」 河童はびっくりしている孫六に、その丸い石を持たせるといなくなってしまいました。 「あ、びっくりした。あれがカワラベちゅうもんか。初めて見たわい。この石をしまっておけば火事にならんちゅうこっちゃ。観音様みたいな石じゃな。これは有難い」 孫六は喜んで、着ていた着物を脱いでその石をくるみ、大事そうに家に持ち帰りました。そしてその石を桐の箱に入れて、家宝として大切に蔵にしまっておきました。 「これはカワラベがくれた石で、火事にならんそうじゃ。大事にするんじゃよ」 孫六は時々子どもに見せ、こう言い伝えていました。それから長い間、石坂では火事が起こりませんでした。 −つづく−
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「火事にならんそうじゃ。大事にするんじゃよ」
「火事にならんそうじゃ。大事にするんじゃよ」
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