第21回 身代わりになった鯉(1/4話)
今からおよそ百六十年前、金屋の小川原(おがら)にしんすけという子どもがいました。近所で「しんぼう坊」と呼ばれた彼は、川の魚と遊ぶのが大好きで、毎日のように庄川へ出かけました。 しん坊はいつものおやつのこりもち(※1)を持って川へ出かけると、たくさんの子どもたちが遊んでいました。彼らが魚に小石を投げつけて喜んでいるのを見て、気の優しいしん坊は、 「そんなことをしたら可愛そうや、やめられ」と友だちをなだめ、自分は川ぶちでこりもちのかけらを少しずつ魚へ投げてやっていました。そのうち、ほかの子どもたちがくると逃げる魚も、しん坊の姿を見ると集まってくるようになりました。しん坊はたくさんの魚の中に立派なひげを生やした、長さ一メートルもある大きな鯉がいることに気付きました。 ある日のこと、しん坊が川へ出かけようと大水門のところまで来たときです。川原から子どもたちの大きな声が聞こえ、びっくりしてとんでいきました。 するとどうでしょう。いつもしん坊のこりもちを食べにくるあの大きな鯉が子どもたちに追われて、浅瀬でピチピチ跳ねているではありませんか。子どもたちは、さらに手に持った小石を今にも投げつけようとしています。しん坊は駆け寄って、「やめて」と叫びながら、鯉の上に覆いかぶさるようにしました。けれども彼らは口々に、 「どけ、どけやい。その鯉はつかまいて(※2)、晩のみそ汁にするがいぞ」 といって騒ぎ立てました。 −つづく−
※1 こりもち・・・切り餅を寒い時期にじっくり自然乾燥させたもの。凍り餅、氷餅と呼ばれる。 ※2 つかまいて・・・捕まえて
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「どけ、どけやい。晩のみそ汁にするがいぞ」
「どけ、どけやい。晩のみそ汁にするがいぞ」
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