第21回 身代わりになった鯉(3/4話)

すると、夜中の十二時を少し過ぎた頃、玄関の戸がカタリと開く音がしました。そして、りっぱなひげを生やした神主様があらわれ、いいました。 「われは赤岩(※1)の近くに住まいする庄川の主じゃ」 お父さんとお母さんはびっくりぎょうてん。痛い腹をさすって、苦しんでいたしん坊も、主の声にびっくりしてとび起きました。 しん坊は神主様の顔を見て、「はて、そのりっぱなひげ、どこかで見かけたことが…」と思い出しそうになったときです。神主様は続けていいました。 「この家の息子は、腹が痛くて困っているそうじゃな。わしがなおしてしんぜよう。まず、神棚の御神酒(※2)をいただきたい。そうしてしんすけ、わしの腹をなでるのじゃ」 これを聞いたお父さんは、いわれたとおり、さっそく神棚の御神酒を神主様にさし上げ、しん坊は神主様の腹をおそるおそるなでました。するとどうでしょう。あっという間に神主様の姿が消えてしまいました。そして不思議にも、しん坊の腹の痛みはうそのようになおってしまいました。ふと気付くと、窓の外から日差しがさしこみはじめていました。 もう正月七日の朝になっていたのです。 このふしぎな話は、やがて村中に広まっていきました。
−つづく−
※1赤岩・・・庄川の中州に浮かぶ島。小さな中州の島が赤味を帯びた固い岩盤であることから赤岩と呼ばれる。 ※2御神酒・・・神前に供える酒。
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「神棚の御神酒をいただきたい。そしてわしの腹をなでるのじゃ」
「神棚の御神酒をいただきたい。そしてわしの腹をなでるのじゃ」
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