第24回 絵から抜け出した馬(1/2話)
これは南砺市安居にある安居寺に伝わるお話です。 安居寺観音堂の中には、大きな絵馬の額が三枚掛かっています。これは「嘘かまことか安居の絵馬、親は三才 子は五才」といわれている有名な絵馬額です。この絵馬はその昔、加賀藩主の前田利常公がお寺に寄進されたものです。 時の太閤豊臣秀吉が京都に築いた、聚楽第と呼ばれる城がありました。聚楽第の城内には、金色に輝く素晴らしい鏡戸(※1)がありました。その鏡戸を三枚、利常公が譲り受けられ、家宝として伝えられていました。鏡戸と言うのは檜の板戸に、金箔が貼ってある立派なものでした。 それから三代目の利常公の世になり、狩野元信(かのうもとのぶ)という絵師に、 「この鏡戸に馬を描き、安居寺に奉納したい」と言われました。 元信は、「そのような尊い所へ奉納される絵馬を私へ申し遣わされるとは、誠に有難きことながら、お申し付けの絵馬に描く馬ならば、私の孫の永徳(えいとく)が若輩者ではございますが、私よりもすぐ優れております。何卒、孫に描かせていただきますようお願い致します」 そこで利常公は、元信と永徳の二人に絵馬を描かせることにしました。
−つづく−
※1鏡戸・・・枠の中に一枚板をはめ込んだ戸。 ※2寛永・・・江戸前期。一六二四〜四年。
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「何卒、孫に描かせていただきますよう…」
「何卒、孫に描かせていただきますよう…」
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