第24回 絵から抜け出した馬(2/2話)
まもなく心を込めた三枚の立派な絵馬が描き上げられて、利常公に届けられました。孫の永徳の描いた三才馬の絵馬が二枚と、五才馬を描いた元信の絵馬が一枚でした。利常公は自らその絵に書を書き加えられ、早速安居寺に寄進されました。 それから十五年ほど経った寛永の頃、この馬が絵から抜け出して、毎晩村中の田畑を荒らし回るという噂が立ちました。 「よんべ(※3)もやられたぞいね」 「ええー、またかいね。弱ったもんやねぇ」 「お寺に文句を言うわけにもいかんしのぉ」 「今年は米は滅茶苦茶やちゃ」 次の晩も、その次の晩も、田畑の作物は荒らされ、村の人々は困り果てて頭を抱えていました。 このことを聞かれた前田利常公は、守景(もりかげ)と言う絵師に絵馬のくつわ(※4)を綱に描かせました。くつわを付けられた馬は暴れなくなり、村は静かさを取り戻したのです。村人たちが大喜びだったのはいうまでもありません。今も絵馬の中の馬は、左右両方から太い綱で縛ってありますね。 三枚の絵馬は、永い年月を得て真っ黒になっていますが、目をこらしてよく見ると、力強い親子の馬が躍動しているかのようです。
―おしまい―
※3よんべ・・・昨晩 ※4くつわ・・・手綱をつけるために、馬の口にかませる金具のこと。
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「よんべもやられたぞいね」
「よんべもやられたぞいね」
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