第29回 大杉と天狗さん(1/2話)

高瀬の森清(もりきよ)というところに伝わる「大杉と天狗さん」のお話です。 今から百六十年も前のことです。大きな杉の木が沢山(たくさん)ある古い大きな屋敷がありました。 その杉の木の中に特別に大きな木が三本ありました。
その家に十歳になる長一郎という男の子がおりました。長一郎は大変学問が好きで、いつも土蔵の中で本ばかり読んでおりました。
ある日のことです。土蔵にいるはずの長一郎の姿が見えなくなりました。 「おや、どうしたのだろう」、「どこへ行ったのだろう…」、村中大さわぎになりました。不思議なことに長一郎のはいていた草履が三本の中の一番高くて太い木の下に、きちんと揃えてありました。
その後、誰一人として長一郎の姿を見た人はありません。それからしばらくして、大杉の上から太鼓をたたく「ドン、ドン」という音が聞こえるようになりました。村人たちは誰言うとなく、大杉へ登って天狗さんになられたのだというようになりました。
何年かたちました。ある日のことです。高野山からの遣(つか)いだという白い薄汚れた水干(すいかん)(※1)を着た男の人が尋ねてきました。 「ご当家のおあんさん(※2)は、高野山(こうやさん)へ来て修業をしておられます」と言って、そのまま帰ろうとしました。そこであわてて引きとめ、夕食を出してもてなし、長一郎のことを聞きだそうとしました。が無口でニコリともせずに、夕食を済ませると、さっさと帰ってしまいました。 −つづく−
※1水干・・・のりを使わず、水張りにして干した布で作った狩絹の一種。 ※2おあんさん・・・長男
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「大杉へ登って天狗さんになられたんじゃと…」
「大杉へ登って天狗さんになられたんじゃと…」
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