第32回 瓜裂しょうずと金屋ねぎ(1/2話)
ある夏の暑い日、瓜割清水の掃除番をしている久蔵の家へ見かけないおじいさんとおばあさんが訪ねてきました。 「おらあ、庄川の東の井栗谷(いぐりだに)のもんで、伊助というもんじゃが、今日はどうしても頼みてえことがあって、おばあさんと一緒に来たがやちゃー」 伊助の話によると、村の谷の水が一ヶ月あまり続いた日照りで全く流れず、村の人々は田や畑どころか、飲み水にさえ困っている。おまけに伊助の大事な一人娘が病気になり、高熱が七日間も続き、とても苦しんでいる、ということです。娘が毎日、「冷たい水が欲しい。おいしい水が飲みたい」というが水がなく、ほとほと困り果てていました。 「どうかお願いじゃ。瓜割清水(うりわりしょうず)の水を、この甕(かめ)に一ぱい分けてくだはれ。それとあそこに植えたねぶか(※1)を四、五本分けてくだはれ。このとおりじゃ」 といって、頭をいっそう地べたにすりつけるように手を合わせました。久蔵はそれを聞き、 「わかった、わかった。そんなこと造作もない(※2)。しばらく待ってくだはれ」 と立ちあがろうとしましたが、久蔵は何か不審そうにまた座って尋ねました。 「半日もかかる遠い所から、またなんでこんな所までおいでなさったのですか」 伊助はしばらくして答えました。 「娘の病がひどうなってから、三日三晩お祈りしました。するとよんべ(※3)、弘法大師様が夢に現われ、『水は庄川の西、金屋村の岩黒という所にある。それから熱を下げるには、同じ岩黒に植えてある生きのよいねぎを細かく切って食べさせることじゃ。あそこのねぎは、昔わしが種を授けてやったのじゃ』と申されて、消えてしまわはったがですちゃ」 −つづく−
※1ねぶか・・・ねぎ ※2造作もない・・・たいしたことはない ※3よんべ・・・昨晩
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「水は庄川の西、金屋村の岩黒という所にある…」
「水は庄川の西、金屋村の岩黒という所にある…」
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