第32回 瓜裂しょうずと金屋ねぎ(2/2話)
この話を聞かされた久蔵は、さっそくねぎ畑へ案内しました。そして、一番活きのいいものを十本ばかり掘りおこし、近くにあったこも(※)に巻いて伊助に渡しました。それからさらに久蔵は、二人を瓜裂清水へ案内していきました。 「さあ、伊助さん。この清水はいくら汲んでもなよならん。いっぱい持っていきなはれ」 伊助夫婦は「ナンマンダブ、ナンマンダブツ」といいながら清水を飲み、持ってきた水甕にもいっぱい入れました。 願いがかなった伊助は、「そんでは代金、どれぐらいおあげすりゃいいかの」と喜びながらいいました。久蔵はいやいやと手をふりながら、 「そんなものいいですちゃ。弘法様からいただいたねぶかの種もなんかの因縁や。それよりも、はよう帰って、娘さんの病を治してあげなはれや」 これを聞いた伊助夫婦は大変喜び、涙を浮かべて、清水のそばのさいせん箱におさい銭を入れ、帰り仕度をしました。久蔵はなおも親切に、二人を庄川の藤掛の渡し場まで送って行きました。そしてもう一度、娘が一日も早く元気になるように祈りました。 それから暑い夏も過ぎ、後の山のもみじが赤くなり、庭のゆずも黄色く実りました。そんなある日、伊助は元気になった娘をつれて、再び岩黒へやって来ました。娘は年ごろに近い、美しくやさしい子で、久蔵にていねいにお礼をいいました。三年後、この娘が久蔵の働き者の息子の嫁になったのも、弘法大師様のお引き合わせだったのでしょうか。 ―おしまい―
※こも・・・藁(わら)やイグサなどの草で編んだ簡素な敷物。むしろ
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清水のそばのさいせん箱におさい銭を入れ…。
清水のそばのさいせん箱におさい銭を入れ…。
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