第38回 池田のどべ(ひとりかご) (1/2話)
昔々あるところに武部(たけべ)という大旦那がいました。 「これこれ、今日は天気もいいし、大牧温泉へ出かけたいと思うが、道中のかご担ぎを一人でやってくれる者はおらんかのう」 「旦那様、一人で担ぐのは無理ですよ」 下男(※1)の一人が答えました。大旦那はすかさず、 「今日はなんとしてもそうしたいのだ」 と重ねて言ってきたので、下男たちは困り果ててしまいました。そこで相談した結果、このあたりで、力自慢の池田のどべに頼んでみようということになりました。早速大旦那はどべを呼びました。 「これこれどべサや。おまえはいつも力自慢をしているそうじゃが、今日は一つ、その力持ちぶりを見せてもらえんじゃろか。わしを大牧温泉まで連れて行って欲しいのじゃが。一人で担いでじゃぞ」 「へぇー、おやすいことで」 と言うなりすぐに仕度に取り掛かり、大旦那を乗せてかごを軽々と担ぎ、かけ出しました。 やがて長崎村の庄川にかかるつり橋の中ほどにさしかかったところ、下を見れば目もくらむような千丈(※2)の谷底に怒涛(どとう)渦巻(うずま)き、ゴウゴウと瀬音(せおと)荒く、激流が流れ下っていました。 ―つづく―
※1下男・・・雇われて雑用をする男性のこと。現在はこうした言い方はしない。 ※2千丈・・・一丈(約3メートル)の千倍。非常に長いことのたとえ。
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「わしを大牧温泉まで連れて行って欲しいのじゃが」
「わしを大牧温泉まで連れて行って欲しいのじゃが」
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