第38回 池田のどべ(ひとりかご) (2/2話)
「旦那様、大変素晴らしい眺めでございますね。ここらでいっぷくタバコをすわせていただきますのでゆっくりと景色をごらんくださいませ」 と言いながら、橋の欄干(らんかん)に寄りかかり、担ぎ棒の先端を片肘(ひじ)で押さえました。大旦那の乗ったかごは、川の上にブランコのようになって揺れていました。 「あぁー、気持ちが良いですね。天気もいいし、見晴らしもいい」 どべは、腰からタバコ入れを取り出して、火打石で火をつけ始めました。火打石でカチンカチンとやるたびにかごはぶらぶらして、今にも真逆さまに落ちてしまいそうです。 「怖い、怖い!」。大旦那は慌ててかごから首をだしました。 「どべサや、このかごを橋の真ん中に下ろして休ませてくれ。これじゃ生きた心地がしない。頼む、頼む」 「旦那様、そこからの眺めは格別かと思いましたが、そうおっしゃるのだから下ろしましょう。その前に私の頼みも聞いてくださいますか?」 「なんでもよい。言うてみい。それよりかごを下ろしてくれい」 「旦那様、かごを担ぐのは昔から二人と決まっているものです。今日は旦那様の命令で、一人でここまで担いできました。二人分のことをしているのですから、今回は給料を二人分にしていただきたい」と言ったとさ。 ―おしまい―
このお話は、南砺市立井口中学校の「課題学習いのくち民話チーム」が制作した紙芝居より、一部加筆・修正の上、掲載しました。
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「かごを下ろしてくれい」
「かごを下ろしてくれい」
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