第39回 ヘクサンボ(1/2話)
むかしむかし、上畠(うわばたけ)に正直で気の優しい兵九郎(へいくろ)という人がおった。朝の早くから夜遅くまで一生懸命働いたが、暮らし向きはなかなか楽ではなかった。 ある時、兵九郎は万世橋(まんせばし)を渡って家へ帰ろうと、橋の真ん中まで来たがいと。ひょいと川の方を見ると、川原の真ん中に茶色で小さいものがねまっとった(※1)と。川原まで下りて行って、よく見るとかわうそやった。足から血が出て、動けんようになっとった。 「かわいさげ(※2)に。今、血を止めてやるさかいな」 兵九郎は、きれいな水で川うその足の傷を洗い、持っとった手ぬぐいを引き裂いて包帯にして、足を縛ってやったと。助けてもらった川うそは、とても喜んで礼を言うたと。 「このお礼に、もしあなたにお困りのことがありましたら、この川の渕へきて願い事を言って、ポンポンポンと手を三回鳴らしてください。どんなことでもきっと叶えてあげます。でもこのことは決して誰にも言わないでください」 かわうそはこう言うと、川の渕へ消えていった。 「不思議なこと言うわい。そんでもいいことしたら、ほんと気持ちええもんやな」 兵九郎はそう言うと、暗くなりかかった山道をせだいと(※3)家へ帰っていったと。 次の日、また万世橋の上を通りかかった兵九郎は、ふと昨日かわうそに言われたことを思い出して、願い事を言ってみた。 ―つづく―
※1ねまる・・・座る ※2かわいさげに・・・かわいそうに ※3せだいと・・・急いで
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「かわいさげに。今、血を止めてやるさかいな」
「かわいさげに。今、血を止めてやるさかいな」
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