第40回 法師の夢塚(1/2)
昔、安居寺の門前に、和泉屋(いずみや)市右衛門という木こりが住んでいました。 秋風がそろそろ吹く九月半ば、市右衛門は冬に備えて薪を作る木を切りに、安居寺の奥の菅の山深くへ入っていきました。そして、滝寺の近くで大きな木の古株を見つけて掘り始めると、「カチン」と鍬の先に当たったものがありました。 「さて!!何だろう」と思いながら掘り続けていくと、土の中から鉦鼓(しょうこ)(※1)と錫杖(しゃくじょう)(※2)が出てきました。なかなか立派なもので、身分の高い人の持ち物だったのかもしれません。 「こんな土の中から。不思議なこともあるものだ」 市右衛門は二つの品物を家に持って帰りました。 次の日、市右衛門は昨日と同じ場所で木を切り、やがてお昼の弁当を食べると、斧を枕にウトウトと寝てしまいました。 市右衛門は夢を見ました。 一人のお坊さんが現れて、こう言いました。 「二つの品は、私が昔、ここに埋めたものです。世の中が騒がしく、煩わしいことばかり、この身を隠すにも安らかな気持ちになれない」 そして悲しそうな顔をして、和歌一首を詠み上げました。 −つづく−
※1鉦鼓・・・雅楽に使う打楽器。叩き鐘ともいう。 ※2錫杖・・・修験者が持つ杖のこと。
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「不思議なこともあるものだ」
「不思議なこともあるものだ」
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