第42回 弁財天社のほこら 其の二(2/2話)

それを聞いた父は、 「まあ、おまえは何ということをしてくれたんだ」 と大変困った顔をして、その場に座り込んでしまいました。 わけのわからない娘は、泣きべそをかきながら、逆木を使ったわけを尋ねました。 「それは今さらどうしようもない。早速ご公儀(※1)に申し出なけりゃいかん。あの逆木には、庄川の下流の大勢の百姓の願いが込められているのじゃ。庄川はむかし、弁財天から西へ流れていたのじゃが、先の洪水で流れが東へ変わってしもた。それで人々は、それまでの川跡や広い野原を開墾して、田や畑にしたのじゃ」 「わかったよ。庄川の流れが元に戻ると、せっかく開いた田畑が元も子もなくなるのやろ」 「そうだ。逆木はひっかかって元に戻るまい。そういう意味が込められていたんじゃ」 こうして次の日、飛騨匠は娘を連れて越中の国へ出発しました。そうして村役人に伴われて郡(こおり)奉行所へ出て、今までのことを話し、詫びました。奉行所では今さらどうしようもないと、何のとがめもなく、親子は許されて飛騨の国へ帰りました。 百年後、弁財天社の上流に松川除(まつかわよけ)堤防が完成しました。砺波地方の人々は洪水の心配がなくなり、川跡や野原を一生懸命開墾して、今までよりも田や畑は広くなり、米などの収穫が増え、みんな喜び合いました。 ―おしまい―
※1公儀(こうぎ)・・・この場合は藩のこと。
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「せっかく開いた田畑が元も子もなくなるのやろ」
「せっかく開いた田畑が元も子もなくなるのやろ」
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