2012/12/1 2013/1/1 となみ野ストーリー　第６１回．世界にナデシコを咲かせたかった男 ●海藻の神秘な姿にひかれて
　「幻の花、ヤマトナデシコの種子、無料で差し上げます」。こんなメッセージを新聞や雑誌に投稿し、世界各地の希望者、延べ３万人以上にナデシコの種を送り続けたのが、今回ご紹介する大島勝太郎です。
大島は明治42年８月、礪波郡出町深江上町(現在の砺波市広上町)で生まれました。大正11年に県立礪波中学校(現在の県立砺波高校)へ進学、その後は廣島高等師範学校(広島大学教育学部の前身)に進学し、海藻の研究に没頭します。そして海藻学の権威・岡村金太郎から個人指導を受ける機会を得ました。同学を卒業後、県立氷見高等女学校(県立氷見高校の前身)の教諭となった大島でしたが、昭和８年にはさらなる海藻研究を志し、廣島文理大学生物科で勉強に励みます。しかし研究のためにと、寒い海に潜り続けたことで結核を患い、療養生活を余儀なくされます。そしてついに退学を決意し、志半ばで故郷へ戻りました。この間も彼は多くの論文を著し、同25年に『富山湾海藻誌』を発表しています。
●菊とナデシコを咲かせ続けて
　昭和29年に健康を害して教員を退職した大島は、教え子からミシン販売を勧められます。そして富山県初のカーテン専門店を開業、その後は地区史調査に励みました。
　昭和45年頃のある日、大島は道端に咲く一輪の野菊を見つけます。ことのほかきれいに見えた彼は、小菊を栽培してそれを切り花にして客にサービスしようと思い立ちます。そして自身で新品種を作ろうと、全国各地に咲く野菊の収集に奔走したほか、「青い菊」を作ろうとも考えました。
　そうした中、清楚で可憐な花を咲かせるナデシコと出会います。昭和54年から本格的に普及活動を始めた大島は、同58年に「富山県花と緑の銀行花いっぱい運動表彰」、平成元年に「全国花いっぱいコンクール表彰」を受賞しました。こうしてナデシコの普及活動に尽くした大島は、平成13年12月に92年の生涯を閉じました。