第56回 とのさまと清水(2/2話)
「お前たち、このあたりの者か」 社(やしろ)の前に引き出された二人に家来が声を掛けました。 「我らは遠くから参ったが、喉が渇いたと殿が申される。水はないか」 「へぇ、社の裏にとびきり冷たい清水が湧く井戸がございます」 殿様は、二人が井戸から汲み上げた清水をゴクゴクとおいしそうにお飲みになりました。 「この村は、景色が美しいばかりでなく、このようにおいしい水にも恵まれておるのか。二人ともこのありがたさをよく知っておくように」 「殿のお言葉じゃ、お礼を申さぬか」 「ははぁ。ありがとうございます」 二人は、何のことかわからないまま、深く頭(こうべ)を垂れました。 それからしばらく経って、三九郎と與助が神社での出来事も忘れ掛けようとしていた頃、二人にあてた手紙が届きました。 「両名の者、達者にしておるか。我らが喉を枯らして困っておるところ、あのようにおいしい清水を汲んできてくれたことに礼を申す。山よし、水よし、人よし、ここは我が藩の大切な米どころじゃ。今後いっそう我が藩のために、米作りに励めよ。加賀藩十二代藩主 前田斉泰」 手紙を読んだ二人は、腰を抜かしてその場に座り込み、「ほんまもんの殿様やったがやー」と大声で叫びました。 池田村にある熊野神社には、書の得意だった前田斉泰公が、清水のお礼に奉納した額が掲げられています。三九郎と與助が清水を汲んだ井戸は、長い年月の中でいつの間にか枯れてしまい、今ではどこにあったかもわからないそうです。 −おしまい−
このお話は、南砺市立井口中学校の特別支援学級の生徒が制作した紙芝居より、一部加筆・修正の上、掲載しました。
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ゴクゴクとおいしそうにお飲みになりました
ゴクゴクとおいしそうにお飲みになりました
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