第2回 天の鏡(前篇)
これは埴生の蓮沼(はすぬま)に伝わるお話です。 次郎さの家では、お米を作りお蚕(かいこ・※1 )を育ておった。 ある日次郎さは、山へ蚕の桑を取りに行った。山には鶯(うぐいす)が鳴いて、さわさわと気持ちのよい風が吹いとった。 次郎さは桑を籠いっぱい取って、道端に置いて「山奥へ行ってこう」と、どんどん歩いていくと、今までに来たことのない崖に突き当たった。滝がごうごう落ちとった。 次郎さは石に腰をかけタバコを一服吸って、もう一度崖を見上げたら、崖の上の方に大きなお盆ほどのものが、きらきら光っとった。 次郎さは「天から降ってきた鏡かも知れん」と、見とれておったら、いつの間にか日が暮れて薄暗くなった。でも、鏡はきらきら光っとった。 次郎さは、夜遅うなって桑をいっぱい背負って家へ帰ってきた。 夕飯を食べながら、今日見た鏡のことを、おばば(※2 )とおかか(※3 )に話した。「あの鏡を取ってくる。売ったらでっかい銭になる」と言うと、おばばとおかかは「山奥にそんなものがあろうはずがない。二度とそんな所へ行くな」と止めた。
つづく
※1 蚕・・・・・かいこ蛾の幼虫。脱皮して口から白くて極細い糸で繭を作る。その繭をお湯で煮ると極細い糸がほつれ出て、その糸によりをかけると絹糸ができる。 ※2 おばば・・・祖母 ※3 おかか・・・妻
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紙芝居『天の鏡』 作・ひまわりグループ
紙芝居『天の鏡』 作・ひまわりグループ
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