第35回 猫池
小谷(おだん)の山(※)の頂上近くに池があります。深さはわかりません。その池には、畳二枚ほどの広さの草の浮島が二〜三枚浮かんでいて、上に乗っても沈みません。 池のまわりが紅葉すると、どこが水ぎわかわからないほどに、水にうつる風景は美しく、静かなところです。この池の名を猫池といいます。 昔、高草嶺(たかそうれい)のある家で一匹の猫を飼っていました。この家にきてから何十年も生きつづけている、年をとった猫です。 「猫は年をとると恐ろしいもんじゃ。」 「手ぬぐいをかぶり、端をくわえて、おそろしい顔して猫じゃ猫じゃと踊るそうな。」 「うちの猫も、心配なこっちゃ。」 そんな家の人の話を、目をつむったまま、じっと聞いていた猫は、そっと家を出て行ってしまいました。 夕方になっても猫が帰ってこないので家の人は探しに出かけました。すると猫の足あとが雪の上にあったので、その足あとをたどって山の中へ入っていきました。 山をどんどんのぼって行くと、頂上の池の淵で猫の足あとが消えていました。 そこで池のまわりを探しましたが見つからず、猫はとうとう帰ってきませんでした。 猫が池の主になったのでしょうか、池には一匹の魚の姿も見ることができません。 また春の雪解けに、猫の足あとがついているように雪がとけるので、その池を猫池というようになりました。 ―おしまい―
※小谷の山・・・標高1040メートル。
●このお話は、五箇山観光協会が発行した『五箇山の昔ばなし』より、一部加筆・修正の上、掲載しました。
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現在の猫池 (写真提供・南砺市教育委員会)
現在の猫池 (写真提供・南砺市教育委員会)
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