第22回 人形山ものがたり(3/3話)
「さぁ、おみつ、帰ろまいか」、「うん」 二人は権現様に心からお礼を述べ、お参りを済ませると急いで山をおりました。ところが急に霧がわき、暗くなってきたかと思うと、山が荒れだし、雪が舞いだしてきました。 「ねえちゃん、寒いよ。手がつべたい(※5)よ。おら、もうだやて歩けん。うちどこじゃ、まだか?はよ、かあちゃんのところへかえろ」 「もうちょっこじゃ、おみつがんばって、うちに帰ったら、かあちゃんまちょる(※6)よ」 「もう歩けん、ねえちゃん!さぶい(※7)、さぶい」 「おみつ、しっかりしょ。おみつ!おみつ!」 雪はなかなかやみそうにありません。 ふもとの家では母親が来る日も来る日も、二人の娘の帰りを待ちました。しかし雪は降りやまず、ついに娘たちは戻ってはきませんでした。 冬が過ぎ、春が来ました。谷川が瀬音をあげて流れ出し、山肌の雪も少しずつ消えていきました。そんなある日、山を見て村人がさわぎました。 「あ!人の形だ」 なんと山肌に二人の娘の姿を見つけたのです。それは、二人が手を取り合っているように残っている雪のかたちでした。 それからというもの、毎年新緑の頃になると、きまってそこに残雪の模様が現れるようになり、村人たちは親孝行な二人の娘が手をつないでいる姿だと信じて眺めるようになりました。そしてこの山を誰からともなくヒトカタ山と呼ぶようになりました。
−おしまい−
※5つべたい・・・冷たい ※6まちょるよ・・・待ってるよ ※7さぶい・・・寒い
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「あ!人の形だ」
「あ!人の形だ」
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