第83回 山田野の天狗さん(1/2話)
昔、福光の東にある山田野という野原のそばに、鍛冶(かじ)屋が何軒もある鍛冶村という小さな村がありました。村の大能(おおの)の鍛冶屋に、清吉(せいきち)という働き者の小僧さんがいました。親方も奥さんも彼を「清(せい)ま」と呼び、可愛がっていました。清まは毎日、村の若者たちと相撲をとることを楽しみにしていました。 ある日の夕方、村の真ん中の空き地に若者たちが集まり、相撲をとっていました。そこへ清まがやってきました。 「なんじゃ清ま、おまえまた負けにきたがか」 「そんなこと言わんと。おらかってだいぶ強なったがいぞ。ちょっこやらせてくれま」 清まがあんまり言うので、背の高い助十(すけじゅう)と相撲を取りました。すると、どうしたことか、今まで一度も勝ったことのない清まが次々と勝ち進んでいきました。 それならと、村一番の力持ちの権六(ごんろく)が清まの前に立ちました。権六の肩までしかない清まを、みんな心配そうに見守る中、清まは権六の体をヒョイと持ち上げると、土俵を囲んでいる若者たちの向こうへ投げ飛ばしました。 「わー清ま、おまえいつの間にそんなに強なったがか?」 みんなびっくりして清まの周りに集まりましたが、清まはただにこにこと笑っています。そのうちに辺りも暗くなり、若者たちも帰っていきました。 その晩遅く、大能の鍛冶屋では清まがいなくなったと大騒ぎになりました。村人たちも探し回りましたが見つからず、とうとう朝になってしまいました。心配で一晩中眠れなかった奥さんが、ふと庭へ出てみると「おかっつぁま、ここ」と上の方から声がしました。見上げると、庭で一晩大きい柚の木のてっぺんに清まがいるではありませんか。木登り名人の六兵衛が登ろうとしましたが、あちこちに棘(とげ)が出ていて上がれません。なんとか清まを下ろそうと枝に縄を掛けると、清まはそれにつながってようやく下りることができました。 −つづく−
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清まは権六を若者たちの向こうへ投げ飛ばしました。
清まは権六を若者たちの向こうへ投げ飛ばしました。
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