第21回 身代わりになった鯉(4/4話)
雪がとけて元気になったしん坊は、いつものようにこりもちを持って川へやってきました。ところが、あのりっぱなひげを生やした鯉が見あたりません。しん坊は心配でたまらず、赤岩の上流の方まで探しました。しかし、とうとうひげの鯉は姿を見せませんでした。 「しんすけ、もう遅いから家へ帰ろう」 「いつものひげの鯉おらんがいぜ。いつも、こりもちを持ってきたら、すぐ寄ってきたがに、どこさがしてもおらんもん」 ふいにしん坊がいいました。 「あっ、そういうたらあん時の神主様、腹いたなおしてくれはった。あの神主様のひげと、あの鯉のひげ、おんなじや。そうや、おんなじやわ」 お父さんも、お母さんもそれを聞いてびっくりしました。やさしいしんすけの心が、川の神様に通じ、神様がしんすけの身がわりになってくださったのです。そして、お父さんはしんすけの顔をなでながらいいました。 「しんすけ、何にでも優しくすることはいいことじゃ。いつまでも優しい思いやりの心を忘れられんぞ」 しんすけのお腹がなおったように、今でも正月の七日には厄年(※)の人やその家族の人たちの一年間の無病息災を祈るのです。お宮さんの神前には、生きたままの鯉が供えられます。この後は鯉に御神酒を飲ませ、鯉のせなかに手をふれて、庄川へ放します。 百六十年前に、小川原のしんすけが鯉に親切にしたことが、今までつづいているのです。 ―おしまい―
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「いつまでも優しい思いやりの心を忘れられんぞ」
「いつまでも優しい思いやりの心を忘れられんぞ」
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