第5回 福町の昔(前篇)
小矢部川は、今よりずーっときれいで、でっかいと水が流れとった。福町には船着き場があって、川上は津沢や福光のまだ上(かみ)まで、川下(かわしも)はずーっと伏木の港まで舟で行き来しとった。その船着場付近を浜といって、荷物の積みおろしや北海道へ行く人を見送った。また、米俵を舟に積み出す人足(にんそく)が大勢働いており、夕方には高張提灯(たかはりちょうちん・※1)がついて賑やかしかった。 小矢部川を挟んで三本の大きな大杉があった。川向かいのお諏訪(すわ)さんの大杉と天狗の大杉と浜の大杉やった。大杉には天狗さんが住んでござらっしゃって、大杉のてっぺんを往ったり来たりしていらっしゃると聞いて、怖くておれなんだ。 小矢部川堤防沿いのお寺の近くに、浜地蔵様が祀られている。昔、旅の手代(※2)が店の大金を落としてしもうて入水(じゅすい・※3)した霊を弔(とむら)うために建てられた。この地蔵様は汗かき地蔵ともいわれ、国の一大事の起きる前には、「びっしょりと汗をかいていらっしゃる」と言われている。浜の地蔵祭りとして、年一回お祭りしている。 明治三十二年、北陸線が開通し石動駅ができた頃には、だんだんと浜の仕事も少なくなり、町の中心も福町から石動駅中心へと移っていった。
−つづく−
※1高張提灯…長い竿(さお)の先につけ、高くさしあげるように作ったちょうちん。 ※2手代…商店に勤めている一番えらい番頭と見習いの丁稚(でっち)との中間ぐらいの使用人。 ※3入水…川・池・海などへ自分から入って死ぬこと。
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紙芝居『福町の昔』 作・ひまわりグループ
紙芝居『福町の昔』 作・ひまわりグループ
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