第72回 石動の花山車のいわれ(1/2話)
今から二七〇年ほど前のことであろうか。 白馬山愛宕神社の森には、天狗様が住んでおられるような大きな杉が何本もあって、昼間でもとても薄暗い所でした。その森に、一本の古い大きな藤の木がありました。 ある日、町の人たちが用事でこの森を通った時のことです。どこからか、かすかに声が聞こえてきました。 「何か声がするぞ。謡みたいやな」 「こんな森の中に誰かいらっしゃるがやろか」 恐る恐る、声のする方へ近寄ってみました。 「あれ、誰もおらんぞ。変やな」 「あの藤の木に何かかかっとるぞ」 町の人たちは、その木の傍らに行ってみました。 「これ、お面みたいやなあー。鼓と笛もあるぞ」 「こんな大事なもん、なんでこんな所にあるがやろ」 不思議に思った町の人たちはこれらを町に持ち帰り、宝物として大事にしまっておくことにしました。しかし手許に置くことが何やら気掛かりで仕方なくなり、「いっそのこと、前田の殿様に献上してはどうだろう」と話がまとまりました。そして翁の面と鼓と笛を、殿様に差し上げに行きました。
−つづく−
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「お面みたいやなあー。鼓と笛もあるぞ」
「お面みたいやなあー。鼓と笛もあるぞ」
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