第94回 つりがねどい(1/2話)
宗守の南の方に、「つりがねどい」という小高い丘があり、その上に大きな石がありました。この石は、昔ここに有名なお寺があった時、お坊さんとその家族がみんな死んでしまい、墓の代わりに村人たちが置いたものでした。 もうすぐお正月がやってくる晩のこと。彦兵衛の家で、みんなが眠ろうとした時、ゴーンと鐘の音が聞こえてきたのです。 「母ちゃん。どこから聞こえてくるが」 「こんな夜更けに気持ち悪いね」 「あー、あれはつりがねどいの方からみたいじゃぞ」 じっと聞いていると、その音は、あの石がある丘の方から聞こえてくるではありませんか。 不思議に思った彦兵衛は、次の日、隣の家の人と一緒におそるおそる見に行きました。 「石がぐらぐら動いとるな」 「夕べと同じ、『ゴーン、ゴーン』ちゅう音も聞こえてくるわ」 その音は医師に近づくと聞こえなくなり、石から離れるとまた聞こえてきたのでした。 「そういえば昔、寺にあった釣鐘が、大晦日の晩になると帰ってくると聞いたことがあったのう」 「ほんまかいな、たたりかのう」 彦兵衛たちはそれから石に近付かなくなりました。 その石の話が忘れさられようとした雪が融けたある春の日、村一番の力持ちである太朗佐の家の井戸から急にうじ虫がどんどん湧いて出てきました。 「気持ち悪くて、水が飲めんね」 「なんでこんないっぱい、うじ虫が出てくるのじゃ」 −つづく−
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「石がぐらぐら動いとるな」
「石がぐらぐら動いとるな」
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