第64回 狐にだまされた佐平さん(1/2話)
昔、福光の新町に、城端と福光の間で荷物を運ぶ仕事をしていた中江屋佐平という男がいました。佐平には妻と子が二人おり、暮らしは貧乏でした。 ある日の夕方、野田の地蔵堂辺りで、後ろから「佐平さん、佐平さん」と女の呼び声がしました。振り返ると、髪が長く、きれいな着物を着た美しい娘が立っていました。 「私は隣村の者です。暗くなってくると、一人で歩くのは寂しいし、この通り重い荷物もあります。すみませんが、良かったら一つ持ってくださいませんか。お礼に、たくさんお金を差し上げますから」 「ああ、いいですとも。いくらでも運んであげますよ」 佐平は娘にそう言いながら、心の中で思いました。 「しめしめ、今日こそはこの娘さんの荷物を運んだお金で、お酒がたくさん呑めるぞ」 一緒に歩きながら、佐平は娘といろんなことを話しました。 「私は、奥さんに死なれて毎日一人で寂しいのです。もし、あなたのような心の優しい美しい人と暮らせたらいいのにな、と思いました」 佐平は嘘をつきました。娘も恥ずかしそうに言いました。 「私も、あなたの奥さんになったら、毎日楽しいと思います。私で良ければ結婚してくださいますか」 そんな話をしながら、二人は縄蔵の地蔵堂までやってきました。娘は懐からきれいな、きれの袋を取り出し、渡しました。 「有難う佐平さん。おかげで本当に助かりました。結婚する約束を忘れないでね。そのしるしに、これを差し上げます。約束の日には、お酒とお饅頭を持って必ず迎えにきてくださいね。さようなら…」 娘はそう言うと、夕暗みの中にスーっと消えてしまいました。袋の中にはお金が入っていました。 −つづく−
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「一つ持って下さいませんか」
「一つ持って下さいませんか」
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