第61回 やち川のかじか(2/2話)
すると腹を切られたにもかかわらず、かじかは全て生き返り、間もなく見えなくなりました。長べえ親子は安心し、旅人の名を尋ねようと見上げましたが、いつの間にかいなくなってしまいました。長べえ親子は手分けして、村人に殺生をやめさせようと走り周りました。そして次の年の春まつりから、日を一日早めて二十七日にすることが、村の寄り合いで決まりました。 それから一年経った春まつりの日の朝、長べえは裏のやち川渕を見て、驚きました。桶やかごに、もち米・豆・小豆、野菜、その上酒樽まで並べてあったからです。 「おっか、長すけ、出てみい。こんなでっかいと、どうしたこっちゃ」 「ごっつおの材料が、みんな揃っとるわ」 その数は、ちょうど百ありました。親子は誰が、どうして、こんなにたくさん置いていったのか不思議でなりません。近所の人々にも尋ねてまわりました。 「そりゃ、助けたかじかの恩返しじゃ」 「いや、のうならしゃった親鸞様からの、お授かりもんかもしれんぞ」 「こりゃ、みんな、長べえさんのもんじゃ」 こうして、思いもかけないたくさんのものをいただいた長べえは、長すけとともに手分けして村中の家々へ、一かごずつ配り、村人は大喜びしました。それは一年後の春まつりの朝にも、その次の年にも、たくさんのもち米や野菜などが並べてありました。 こうして長べえの家はだんだん裕福になり、その上いっそう力を合わせて働いたので、一年に蔵が一つずつ増えていきました。やがて長すけは隣の庄村から、器量よしで働き者のお嫁さんをもらい、かわいい赤ちゃんも生まれました。長べえはその後、村人から薦められて村の長になり、三谷の里は平和で豊かな村になったということです。 今でもやち川には、腹がくぼんで、あたかも切られたような、かじかが棲んでいるそうな。 ―おしまい―
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「こんなでっかいと、どうしたこっちゃ」
「こんなでっかいと、どうしたこっちゃ」
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