第68回 釜が淵嫁が淵(2/2話)
「どうした。顔色が悪いようだが」 「大切なお椀を洗っていたら、ちょっと手が滑って流してしまったのです。どうすればよいか困っています。まわりが黒くて中が赤い、それはそれはきれいなお椀でございます」 「そうか…。そんなに困っているのなら、ワシのもっているお椀を貸してやってもよいが、そのかわり一つ約束がある。使ったらすぐ返すことだ」 「貸してくださるのなら、どんな約束でもします。すぐに返します」 川の主は、流してしまったお椀の数だけ貸してくれました。およねは、お椀を借りたことを内緒にして、その日は無事に終わりました。 それから数日が経ちましたが、およねは川の主から借りたお椀を返そうとしなかったのです。ある日のこと。およねは起きたばかりで寝巻も着替えず、だらしない姿でお釜に水を入れて、火を炊いておりました。すると突然、お釜がぐらぐらとゆれ出し、中に入っている水がふき出し始めたではありませんか。ごうごうというものすごい唸り声とともに、釜がひとりでに動き出して、川の中へ落ちようとしています。そして、川の真ん中に大きな渦巻きができたかと思うと、 「約束をしたのにお椀を返さなかったな。その罰としてお前が大切にしているお釜を取ってやる」 およねはびっくりするばかりで、声も出ません。やがてお釜は、ゆっくりと川の中へ落ちていきました。ハッと気がつき、慌ててお釜を追いかけようとしましたが、届きません。 「あー、私の大事なお釜が…。釜がないとご飯が炊けない…。」 およねは何とかして川に落ち沈んでいるお釜を拾い上げようと、川の中へ入ろうとしました。そして川の中の渦に引きずりこまれ、二度と上ってこなかったということです。 ―おしまい―
このお話は、福光地域公立保育園の保育士が制作した紙芝居より、一部加筆・修正の上、掲載しました。
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川の中に主が現れたのです。
川の中に主が現れたのです。
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